2022年も健康食品業界に様々な動きがありました。ここでは、海外のウェルネスフードに関する商品情報や企業の動向、消費者リサーチ、サイエンス情報など、 様々な観点から2022年を総括します。
ベースとしたのは、英国発の業界誌『New Nutrition Business(NNB)』が発行している「10キートレンド2022」。加えて、その10キーワードの翻訳版を日本で唯一(※)手がけているグローバルニュートリショングループの「GNGグローバルニュース」、この2つをベースに2022年に起きた注目のトピックスを振り返ります。
当サイト『uerkenGAKU』
調査チーム(Zenken)
「健康美容EXPO」などの健康食品に関連するメディアを運営するZenkenが今消費者に求められているウェルネスフードとは何なのかをリサーチ。国内外の有益な健康食品のトレンド情報を独自の目線でピックアップしてご紹介します。
トレンド1:炭水化物:より良く、より少なく
大事なのは「罪悪感なく食べられるかどうか」
消費者が炭水化物を大好きなのは、日本も欧米も同じ。世界的に主食として、食文化に重要な役割を果たしてきました。
しかし、近年では過剰摂取による血糖値や体重の増加を懸念する消費者が増えたため、摂取量を控えつつ、より良質な炭水化物が求められる傾向にあります。
こうした低炭水化物ダイエットはかつてニッチな存在でしたが、糖尿病関連団体から 2 型糖尿病の食事療法として認められるなど、科学的な裏付けも成され、もはや世界的なスタンダードになりつつあります。
このトレンドの商品開発に求められるのは、「罪悪感なく食べられるかどうか」。取るべき主な戦略としては、下記の4つがあります。
①より良い、より少ない、よりグリーンが多い炭水化物
例. FRESHLY FIT(カリフラワーライス)
②ケト
例. Oroweat(KETO食パン)
③ボリュームをカットする
例. Sandwich Thin(薄切りのサンドイッチ)
④エナジーのための炭水化物
例. KIND ENERGY(グルテンフリーかつ100%全粒穀物のエナジーバー)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド2:多様化する腸のウェルネス
新たなサイエンスを使った商品が次々と
WHOは「全世界の3分の1の人が人生のある時点で消化に関する問題に遭遇する」と報告しています。消費者は腸の健康を得るために、新しい食品や飲料を試し、各企業はそのニーズにこたえるため、次々と新商品を開発。腸のウェルネス市場は多様化・細分化されつつあります。
一昔前までこのトレンドの代表的存在だったグルテンフリーはもはや牽引する存在とは言えず、グレインフリーをはじめ、ヤギ乳やヒツジ乳、乳糖フリー、A2ミルクやFODMAPsといった新たなサイエンスを使った商品が次々と台頭してきています。
このトレンドで取るべき戦略は以下の9つです。
①プロバイオティクスと発酵
例. Symprove(飲むサプリメントのプロバイオティクスブランド)
②プレバイオティクスと食物繊維
例. Highkey(の水溶性食物繊維のイヌリンを使用)
③乳糖フリー乳製品
例. Chobani Zero Sugar(糖質0で乳糖フリー&高たんぱく質のヨーグルトシリーズ)
④プラントベース乳代替品
※例はトレンドの4を参照。
⑤グレインフリー
例. Siete Family Foods(メキシコ料理のグレインフリー代替品)
⑥新興のヤギ乳&ヒツジ乳の採用
例. La Lemance(ヤギ乳チーズ)
⑦A2
例. Letti(ブラジル初のA2乳商品)
⑧グルテンフリー
例. Nairns(オーツ麦を使用)
⑨FODMAPs - 科学的根拠を有するニッチ
例. Kellogg’s Special K(Fodmap Friendly認証・全粒の玄米を使用)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド3:燃料としての脂肪の発展
「脂肪は太る」という考えは過去のものに
「脂肪は太る」という考え方は数十年前までは一般的でしたが、いまや健康志向の強い欧米の消費者の中では、脂肪に対する抵抗感は薄れ、ケトダイエット商品が注目を浴びつつあります。
脂肪を使えることは企業にとって大きなメリット。脂肪は口当たりや食感を滑らかにしたり、味を改善したりするのに有効で、全脂肪ヨーグルト、バター、チーズ、スナック菓子など、脂肪のベネフィットを活かしつつ糖質を抑えた商品・ブランドが次々と開発されています。
このトレンドで取るべき戦略は以下の2つです。
①健康と楽しみのための脂肪
例. Gold Top luxury yoghurt(脂肪分の高いジャージー牛乳を使用)
②ケトフレンドリー
例. Rebelアイスクリーム(1食91gあたりの総脂肪量26g)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド4:植物を便利に
マーケターの仕事を容易にする天然の機能性
これは、ビーガンやベジタリアンのためだけのトレンドではありません。多くの消費者が野菜や果物を食べたいと思いながらも、実際に食事に取り入れるのは難しく、より便利に摂取したいというニーズが高まっています。
植物は、マーケターの仕事を簡単にすることも可能。消費者は天然の機能性を持つ植物をほぼ無条件で「健康に良いもの」と捉え、様々な食品について野菜が含まれているものを歓迎します。
ヘルシーなスナック菓子などに利用されることが多いアボガドはその典型と言えるでしょう。長い成分リストを載せる必要はなく、マーケターは植物が持つ天然の機能性を謳うだけで、消費者の関心を引き寄せることができるのです。
このトレンドで取るべき戦略は以下の6つです。
①ヒーローとしての植物(野菜や果物を商品の主人公にする)
例. Poshi(蒸し野菜のドライスナック代替品)
②植物のブレンドで健康ハロー効果を起こす
例. Veggies Made Great(野菜中心のマフィン等)
③本物の野菜がでんぷん質の炭水化物に取って代わる
例. Veggie Pasta(11.6百万ドルの売上を達成)
③ボタニカルの健康ハロー効果
例. Actimel Botanicals(ボタニカルを配合したヨーグルトドリンク)
⑤収益性の高いパウダー
例. Kakadu Plum(抗酸化物質、免疫力成分、ビタミンCを含む)
⑥プラントベース乳代替品
例. RISE(オーツミルクのコールドブリューコーヒー)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド5:スイッチが入った動物性プロテイン
サステナビリティを実現して進化を遂げる
近年において、環境保護やサステナビリティの視点から、食肉や乳製品由来の動物性プロテインを批判する声は小さくはありません。ただ、消費者の食肉に対する需要は根強く、プラントベースのそれをはるかに上回っています。アメリカの2020年の食肉の売上高は100億ドルで、プラントベース代替品はわずか4億円でした。
世間の批判に晒されるなかで、動物性プロテインは進化を遂げています。多くの生産者がグラスフェッド(牧草飼育)、地元生産、オーガニックなどに取り組むことによりサステナビリティを実現し、そのうえで食肉や乳製品を楽しめる製品を開発。なかでもスナックの成長は目覚ましく、ミートスナックやチーズスナックなどの需要が増加しています。
このトレンドで取るべき戦略は以下の6つです。
①楽しみを許容するサステナビリティ
例. Horizon Organic社(2025年までにサプライチェーン全体でカーボンポジティブになることを約束)
②動物性プロテインの品質面での優位性を築く
例. YoPro/HiPro(天然由来のたんぱく質)
③コラーゲンの新たな方向性
例. Lohilo(330ml缶あたり5gのコラーゲンを配合)
④ヘルシースナックとして生まれ変わったチーズ
例. Whisps(乾燥チーズスナック)
⑤肉のスナック化の成功
例.Brave Good Kind(チキンを使ったバー)
⑥肉とブレンドされた植物
例. Well Carved(グラスフェッド牛にカリフラワーなどをブレンド)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド6:植物性プロテインのパラドックス
プラントベースもその販売力を失いつつある
野菜や果物といった植物は健康に良いと多くの消費者に支持され、ポジティブな印象を抱いています。しかし、植物性プロテインはたんぱく質だけでなく、炭水化物も含むため、動物性に比べると劣る部分があり、これが戦略を難しくしている要因の1つと言えます。
技術的にも100%植物性プロテインで良質な商品を開発することは動物性よりも難しく、開発できたとしても見慣れない原材料リストがずらりと並んでいたら消費者の心は離れてしまうでしょう。
日本でも注目を浴びているプラントベースも、もはやその販売力を失いつつあります。消費者が重要視しているのは味や価格、たんぱく質の種類などであり、植物性プロテインの強みであるサステナビリティの優先度は高くありません。加えてこの市場には多くの競合が参戦しており、マーケティング担当や製品開発担当の仕事は困難を極めるでしょう。
このトレンドで取るべき戦略は以下の6つです。
①健康ハロー&利便性のための植物性プロテイン
例. Heinz Plant Proteinz (66%の野菜(豆類含む)を含有)
②天然の植物性プロテイン
例. Wonderful Pistachios(美味しく便利なスナックとして提供)
③第2世代の植物性プロテイン
例. Silk Greek-style(植物性プロテインを10gに増加、原料数を11に削減)
④苦戦する肉代替品
例. Beyond Meat(売上高は増加し、損失も拡大)
⑤粉末
例. MyProtein(16gあたり10gの植物性プロテインが摂取)
⑥新しいたんぱく質素材のニッチを切り開く
例. Kuli Kuli(モリンガを主成分とするスムージーなど粉末を提供)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド7:甘さの再発明
様々な甘味料を受け入れるようになった消費者
脂肪にとって代わって、消費者の最大の敵とみなされるようになったのが糖質。糖質を減らすことがウエイトマネジメントの第一歩であり、「糖質控えめ」への取り組みはウェルネスフード業界における必須項目と言っても過言ではありません。
糖質を控える代わりに、人々は様々な甘味料を受け入れるようになり、これが企業やブランドの成長を促しています。エリスリトール、イヌリン、アルロースなどの甘味料を使った新商品が次々と発売。これらの甘味料の革新は市場を活性化するだけでなく、低炭水化物・ケトの動きにも拍車をかけています。
このトレンドで取るべき戦略は以下の4つです。
①減らす、置き換える、取り除く
例. Good Measure(アルロースを使用したスナックバー)
②ナチュラルさをキープする
例. Must Love(乳製品を含まないアイスクリーム)
③エネルギーとスポーツのための糖質
例. Clif(ナチュラルなスナックバー)
④ご褒美
例. Mr Kipling(、100gあたり最大40gの糖質)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド8:ムード&マインド
ベネフィットの体感が成功の鍵
日本に限らず、世界中の消費者の約20%が「ムードや心の健康を高めるために食事をしている」と言われています。若い消費者ほどその傾向は強く、気持ちを落ち着かせたり、気分を高めたりする効果が期待できる食品を必要としています。
そうした明確なニーズがありながらも、この分野で成功を収めている商品・ブランドが少ないのは、消費者に効果を実感させるのが非常に難しいから。ただし裏返せば、科学的な根拠に基づいて、効果を実感させるベネフィットを提供できる企業には、勝者となる可能性が大いに広がっています。
日本でいえば、「睡眠の質が良くなった」など口コミで高い評価を集めるYakult1000が数少ない成功例と言えるでしょう。
このムード&マインド分野は、日常的な「リアルフード」と強く結びついています。例えば、チョコレートのように短時間であっても気分が良くなると消費者に感じさせることが重要になります。
このトレンドで取るべき戦略は以下の3つです。
①新規成分と既存成分の組み合わせで安心感を与える
例. REBBL(アダプトゲンを使用した飲料)
②消費者が実感できるベネフィットを提供する - あるいはベネフィットを実感する方法を示す
例. Mud Wtr(コーヒー代替品の水溶性粉末製品)
腸脳相関の新たな機会
例. Lifeway社(腸の健康が脳の健康にとって重要という研究成果をアピール)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド9:脚光を浴びる栄養素密度
マーケターにとって魅力的で消費者にとってわかりやすい
アメリカでは「栄養素密度が高い」や「栄養分に富む」という表現で訴求するブランドが増え、この傾向は英語圏や南米、やがて欧州にも波及すると考えられています。「栄養密度」というコンセプトはマーケターにとって魅力的であり、消費者にとっても「プレバイオティクス」のような専門的な用語よりシンプルで理解しやすいというメリットがあります。
栄養素密度の高い食品の例を挙げるなら、キャベツなどのアブラナ科の野菜類、ベリー類、魚などの動物性食品、マメ科植物、オーツ麦のホールグレイン類、ナッツ&種子類、ほうれん草などの葉野菜、キノコ類など。一方、栄養素密度の低い食品はスナックなどの超加工品、キャンディなどの菓子類、ベーカリー類、ソフトドリンクやアルコールなどの飲料類が挙げられます。厳密な定義はありませんが、「食品のエナジー含有量(100kccal)あたり・重量(100g)あたり、または1回量あたりの有益な栄養素量のことを指します。
このトレンドで取るべき戦略は「新興の第2世代戦略」。第1世代は朝食シリアルの「Ensure」に代表されるようなビタミン&ミネラルの強化が中心でしたが、1990年頃には販売力が低下。現在は技術的な革新を用いたり、天然の原料を使ったりすることで、高い栄養素密度の商品を提供する第二世代の動きが活発になっています。プラントミルクのElmhurst、ベビーフードのCerebellyなどが印象的な例として挙げられます。
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。
トレンド10:本物らしさ&来歴
「誰がどこで作ったか」を重視する傾向
ここでいう来歴とは、「誰がどこで作ったか」を指します。新型コロナウイルスによるパンデミックを受け、消費者はこの数年で、食品に対してより品質・安全性・信頼性の証を求めるようになりました。
このトレンドはサステナビリティへの意識の高まりとも関連していますが、消費者の多くは匿名の工場で作られたプラントベース肉代替品より、地元農家が育てたグラスフェッド牛を好む傾向があります。Accentureの調査によれば、「世界の消費者のうち56%が1年前よりも多くの地元の製品を購入している」というデータもあります。
消費者が求めているのは、シンプルに作られ、加工度が低く、栄養価のリアルフード。食材や原材料にポジティブなバックストーリーを持たせることで、消費者の関心を集めることも可能になるでしょう。
このトレンドで取るべき戦略は以下の5つです。
①来歴はここから、地元のものそして本物
例. Pastoret(スペインの乳製品ブランド)
②本物の「リアルフード」
例. Cheerios(発売当初の材料である全粒オーツ麦で販売)
③「○○スタイル」で作られる来歴、本物らしさ
例. Brazi Bites(グルテンフリーのポンデケージョ)
④そこからの来歴
例. Honest to Goodness(アーモンドとココナッツミルクから作られたコーヒークリーマー)
⑤来歴は効果を保証する
例. Onaka(3種類のプロバイオティクスを使用)
このトレンドで成長が見込めるカテゴリ
黄: 中成長の機会。市場は新興および既存のプレイヤーにより、十分な成長を遂げているか、過密している。
赤: 低成長の機会。当該戦略は、カテゴリー内における「衛生要因」であり、もう差別化とはならない。