健康や美容によい植物由来のタンパク質の食品を求める声は世界中にあります。BEYOND MEAT社の「Beyond Burger(ビヨンド・バーガー)」もそうしたニーズに応えた商品のひとつ。一時的には成功を収めましたが、その後大きな赤字を抱え、苦境に立たされています。そんな「Beyond Burger」が失敗した要因についてリサーチしてみました。
当サイト『uerkenGAKU』
調査チーム(Zenken)
「健康美容EXPO」などの健康食品に関連するメディアを運営するZenkenが今消費者に求められているウェルネスフードとは何なのかをリサーチ。国内外のマーケティング成功事例・失敗事例などを独自の目線でピックアップしてご紹介します。
「Beyond Burger(ビヨンド・バーガー)」とは?

完全菜食主義のヴィーガン文化の広まりなど、植物由来の原材料から作られた食品の開発も進んできました。ヴィーガン食は低カロリーで健康や美容によいとされ、特に女性に一定の支持をされています。ただ、肉食のような満足感を感じることは難しく、植物性食品の開発は高いハードルが存在します。
こうした時代の流れの中で、米・ロサンゼルスの「BEYOND MEAT(ビヨンド・ミート)社」は、植物由来の原材料を使用した肉代替品の「Beyond Burger(ビヨンド・バーガー)」を開発しました。この「Beyond Burger」は、牛肉の食感を出すため、牛肉の分子構造を分析し、牛肉に近いエンドウ豆のタンパク質成分を使用しています。また、牛肉の脂身も研究し、代替肉汁の再現に成功しています。
このBEYOND MEAT社は2017年に代替肉市場に参入、NASDAQにも上場を果たし、代替肉市場の23%のシェアを獲得。マイクロソフトのビル・ゲイツも出資し、非常に期待されていました。ただ、開発当初から「Beyond Burger」に対する懸念の声もあったのも事実です。
プラントベース代替肉市場は、将来的に成長すると予想されます。しかし、BEYOND MEAT社の「Beyond Burger」は、代替肉市場で現在苦戦を強いられてます。
「Beyond Burger」の現状は?
画期的な代替肉「Beyond Burger」を開発した「BEYOND MEAT社」ですが、2022年上半期まで売上は増加していますが、営業損出が333%という衝撃的な状況で、株価も急落しています。
代替肉のリーダー企業としての市場の位置づけであったため、大きな失望を残しています。11億ドルの負債があるとされ、財務状況も芳しくなく、再建への道のりは厳しいと言わざるを得ません。
消費者は代替肉への関心はありますが、「BEYOND MEAT社」は新しい戦略を打ち出せず、競合企業にシェアを奪われているのが現実です。このように、代替肉の認知を拡大することに大きな資金を使ったが、その市場に競合企業が参入し、消費者の支持は競合企業に移り、大きな赤字だけで残ってしまったというのが現在の状況です。
「Beyond Burger」は
なぜ失敗した?
「BEYOND MEAT社」が失敗してしまった要因はどこにあるのでしょうか?1995年創刊で、42カ国、1000社以上におけるウェルネスフード業界の上級管理職が購読している専門媒体『New Nutrition Business』の分析レポートから考察し、その要因を探りました。
提供元:株式会社グローバルニュートリショングループ(https://global-nutrition.co.jp/)

失敗要因その①:空転したマスマーケティング
「BEYOND MEAT社」は、画期的な代替肉に目を付け、マイクロソフトのビル・ゲイツが出資し、NASDAQに上場するなど、急成長しました。しかし、巨額の投資によるマスマーケットをターゲットにしましたが、消費者のニーズに一致せず、代替肉「Beyond Burger」が消費者に思うように受け入れられませんでした。
代替肉のマーケットは、将来的には拡大すると考えられますが、全てのマーケットにはニッチが存在するという視点に欠け、「BEYOND MEAT社」の画一的なマーケティング戦略のミスと言えます。 このように、代替肉によるイノベーションを焦りすぎ、地道な消費者ニーズに応えていないことが、「BEYOND MEAT社」の経営戦略の問題だったのでしょう。
失敗要因その②:国外市場で競合企業との競争に敗れる
「BEYOND MEAT社」によって拡大してきた代替肉市場に競合他社が参入し、アメリカだけでなくヨーロッパ市場でも、「BEYOND MEAT社」は苦戦を強いられています。それは、アメリカの代替肉市場だけではありません。
例えば、イギリスでは30以上のブランドが代替肉市場に存在し、「BEYOND MEAT社」は知名度が劣るため、差別化戦略を立てる必要があります。しかし、マスマーケットブランドを目指してきた「BEYOND MEAT社」では、競合に太刀打ちできない状況が続いています。
「BEYOND MEAT社」のマーケティング戦略は、グローバルな代替肉市場を想定していましたが、各国のニッチな代替肉市場を想定しておらず、競合他社との競争に勝利が難しいのです。その結果、財政状況も悪化してしまいました。
失敗要因その③:消費者が求める「美味しさ」を満たせず
「BEYOND MEAT社」は、「肉食を終わらせる」という経営理念を掲げていましたが、代替肉市場としてはニッチ市場に過ぎません。そして、代替肉の味覚が消費者に美味しいと感じられないならば、いくら価格が安くとも、リピートには繋がりません。
2022年上半期におけるBeyond社の売上は前年と比べて20%増加してましたが、損失はさらに333%増加。深刻な業績不振を受けて同社は40名の従業員を解雇したとはいえ、それでも十分とは言えません。
新本社とイノベーションセンターを建設中ですが、 業績不振が明らかになった時点でこの計画を中止すべきでした。製品の味や食感で消費者の期待に応えられず、価格優位性を実現できていないことを考えれば、コストは増加どころか削減されるべきでしょう。
海外トレンド・グローバルな視点で見た
「Beyond Burger」の失敗要因は?
ここまでBeyond Burgerが苦戦している理由をウェルネスフード調査チームがリサーチしてきましたが、この失敗事例から日本企業が学べることはどんなことでしょうか?NNBレポート翻訳版を提供し、その他の海外健康食品トレンド事情に精通しているGNG研究会の武田先生に解説していただきました。
株式会社グローバルニュートリショングループ

35年以上一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外650以上のプロジェクトを実施。機能性表示食品普及推進協議会設立メンバーであり、『健康食品ビジネス大事典』『ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング』など健康食品関連の著書もある。現在も年間50件以上の企業セミナーを開催し、欧米トレンドを採り入れたマーケティング視点で、数々のヒット商品の開発に関わる。
グループ代表取締役 武田猛先生
ウェルネスフードの基本戦略を
無視した結果
肉代替食品は、米国では古くからあるニッチなカテゴリーで1970年代から存在しています。消費者は、健康的なライフスタイルを求めるニッチな人たちです。肉食のメインストリームをターゲットにするビヨンド社は、肉に代わってビヨンド・バーガーを選ぶのであれば、彼らの期待する味に応える必要がありました。そして、ここが最大の問題点でした。
米国の植物性肉代替食品のカテゴリーは一時的に成長した後、2021年には肉市場におけるシェアがわずか1.4%にとどっていて、失速しています。ビヨンド社は今、成長が止まっている分野で事業を展開しているのです。
市場自体の成長が止まっている理由は、米国の多くの消費者が、トライアル購入はするのですが、リピート購入には至っていないからです。多くの消費者が「一度で十分」と思ったのです。
そして最大の失敗要因は、ウェルネスフード市場の大きなトレンドを取り入れなかったことです。
それは「ナチュラルヘルシー」そして「クリーンラベル」「リアルフード」というトレンドです。
ビヨンド・バーガーには20種類以上の原材料が使用されています。多くの消費者は原材料リストが短い、加工度の低い「より本物」に近い食品を好みます。
そして、ビヨンド社の製品は、決してイノベーティブなものではありませんでした。 ビヨンド社の技術は、あらゆる競合他社が使用している30年前の技術とほとんど変わりません。ビヨンド・バーガーは、モーニングスターや他のブランドとほとんど変わらず、より優れた製品や消費者体験(味・食感)ではなく、マーケティングの量によって差別化されました
そのような状況にもかかわらず、多くの投資家が資金を投入したため、焦りもあったのです。
トレンドを取り入れ、イノベーティブな製品をニッチな市場に投入するという、ウェルネスフードの戦略の基本を無視した結果とも言えます。