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米国ニューヨークに本社を置く食品・飲料メーカーのPepsiCo社が2020年に発売した「Driftwell(ドリフトウェル)」。「飲んでリラックス」をキャッチフレーズに、睡眠の質向上やストレス緩和が期待できる飲料として大きな期待を集めましたが、2022年現在、大きな苦戦を強いられているようです。 ここでは、「Driftwell」の戦略が失敗に終わってしまった要因を考察し、そこから得られる教訓を学んでいきます。

この記事を作成したのは…
当サイト『uerkenGAKU』
調査チーム(Zenken)

「健康美容EXPO」などの健康食品に関連するメディアを運営するZenkenが今消費者に求められているウェルネスフードとは何なのかをリサーチ。国内外のマーケティング成功事例・失敗事例などを独自の目線でピックアップしてご紹介します。

「Driftwell(ドリフトウェル)」とは?

Driftwell(ドリフトウェル)
引用元HP:PepsiCo社(https://www.drinkdriftwell.com/)

日本と同様、アメリカもストレスや不眠に悩まされる消費者が少なくありません。2021年にBrightfield Group社が5000人を対象に行ったアンケートによれば、「約50%がリラックスやストレス解消を求めている」とのこと(※)。新型コロナウイルスが流行した2020年からこの数値は13%増加しており、リラクゼーション効果が得られる成分への注目が高まっています。

そんなのなか、「飲んでリラックス」の睡眠サポート飲料として登場したのがDriftwell。リラクゼーション効果があるとされるマグネシウム(40mg)、L-テアニン(200mg)などを配合するだけでなく、砂糖ゼロ・カロリーゼロという点を打ち出し、プロモーションを展開しました。 また、DriftwellはPepsiCoの社内コンペ「The Next Big Idea」で600以上の候補から選ばれたブランドであり、商品化の速さでも注目を集めました。

「Driftwell」の現状は?

英国発の健康食品専門媒体『New Nutrition Business』のレポートによれば、Driftwellは「発売から18か月後、同商品はどこにもなく、同ブランドのオンラインプラットフォームも閉鎖されている」と報じています。たしかにPepsiCo社の公式HP(https://www.pepsico.com/)を見てもDriftwellは商品ラインナップからは姿を消し、同社内でもその存在感は希薄になりつつあるようです。

Amazonのレビュー評価では3.4(2022年11月30日時点)とそこまで悪くない数字ですが、投稿者のコメントを見てみると、

  • 効果が感じられなかった…
  • ラベンダー味のようだが、水のような味だった
  • 風味が感じられなった
  • 眠くなったり、リラックスしたりすることはなかった
  • 価格が高すぎる
という味や品質、効果の実感について厳しい意見が並んでいました。この結果を見る限り、「Driftwell」は味や効果に関して消費者の期待に応えられなかったと言えそうです。

「Driftwell」はなぜ失敗した?

PepsiCo社の「Driftwell」が失敗してしまった要因はどこにあるのでしょうか?1995年創刊で、42カ国、1000社以上におけるウェルネスフード業界の上級管理職が購読している専門媒体『New Nutrition Business』の分析レポートから考察し、その要因を探りました。

参考資料:NNBマガジン2022年8月号日本語要約版
提供元:株式会社グローバルニュートリショングループ(https://global-nutrition.co.jp/
NNB 2022年8月号日本語要約版
NNB 2022年8月号日本語要約版

失敗要因その①:「ムード&マインド」への理解不足

睡眠サポート飲料の「Driftwell」は、NNBが毎年発表している「10キートレンド」の「ムード&マインド」というトレンドに該当します。ストレス緩和や睡眠の質向上をもたらす食品・飲料のトレンドのことであり、この領域は近年消費者の関心は非常に高いものの、メーカー側がその期待に応えるのは非常に難しいとされています。日本でいえば、「Yakult1000」がこのトレンドでの数少ない成功例と言えるでしょう。

ムード&マインドの領域において、最も大事なのは、味とベネフィットの体感。「Driftwell」はどちらも消費者の期待に応えられなかったために、軌道に乗ることができませんでした。PepsiCo社は消費者のニーズは把握していたものの、「味とベネフィットをどう消費者に届けるか」という重要な視点が抜け落ちていたと言わざるを得ません。

失敗要因その②:アイデアやスピード優先の戦略が仇に

Driftwellは2020年に行われたPepsiCoの社内コンペ「The Next Big Idea」で600以上の候補から選ばれたブランド。大きな期待を集め、コンペの10か月後には同ブランドのWebサイトはもちろん、Amazon、Walmart、Krogerでも販売されることとなりました。

アイデアが生まれ、商品化されるまで約10か月で、PepsiCo社は「Driftwellは同社史上最速で市場に出た飲料ブランド」とPR。多額の投資をし、「他にない飲料」として売り出しました。 しかしながら、アイデアやスピードを優先するあまり、前述したとおり、味やベネフィットの体感を疎かにする結果に。NNBは「1990年代にはヘルスベネフィットと引き換えに味を妥協する消費者もいたが、そんな時代は終わった」と述べています。

失敗要因その③:価格でも消費者の期待に応えられず

Amazonのレビュー評価を見てみると、味への不満もさることながら、「価格が高い」という声が多く見られました。実際の価格を見てみると「Driftwell」は7.5オンス(213ml)の10パック入りで22.98ドル(Walmartより)。似たような商品であるProper社の睡眠サポート飲料「Som Sleep」は8.1オンスの12パック入りで29.99ドル(公式サイトより)。1缶あたりの値段でみればDriftwellが2.29ドル(319円)、Som Sleepが2.49ドル(347円)とほぼ同額であり、さらにSom SleepのほうがAmazonレビューで4.2と高い評価を得ていました。

こうした結果を踏まえると、消費者の不満は至極真っ当であり、低価格でもなく、味も他社に劣る「Driftwell」をあえて選ぶ理由が見当たらないと言えます。他社製品との競争力、差別化という点においても強みを見出せなかったことも「Driftwell」が失敗に終わった要因と言えそうです。

海外トレンド・グローバルな視点で見た
「Driftwell」の失敗要因は?

ここまでDriftwellが苦戦している理由をウェルネスフード調査チームがリサーチしてきましたが、この失敗事例から日本企業が学べることはどんなことでしょうか?NNBレポート翻訳版を提供し、その他の海外健康食品トレンド事情に精通しているGNG研究会の武田先生に解説していただきました。

【取材協力】
株式会社グローバルニュートリショングループ
武田猛先生
株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役 武田猛先生
武田猛先生

35年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外650以上のプロジェクトを実施。機能性表示食品普及推進協議会設立メンバーであり、『健康食品ビジネス大事典』『ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング』など健康食品関連の著書もある。現在も年間50件以上の企業セミナーを開催し、欧米トレンドを採り入れたマーケティング視点で、数々のヒット商品の開発に関わる。

株式会社グローバルニュートリション
グループ代表取締役 武田猛先生

「味」で消費者の期待に
応えらえず

ムード&マインドのカテゴリーは消費者の関心も高く、今後の成長が期待できる領域です。 しかし、成功が難しいカテゴリーともいわれています。 それは、体感しないと満足してもらえず、リピート購入が期待できないからです。 また、いくら関心が高いからと言っても、やはり味は重要です。

Driftwellの失敗要因は、まずはその味が消費者の期待に応えることが出来なかったことです。 また一般的な炭酸飲料の缶に入っており、他のマスマーケットの商品と同じように見えます。 原材料も目新しさはなく(マグネシウム40mg、L-テアニン200mg含有)、ヘルスベネフィットの主張を除けば、消費者を動機づけるような差別化がされていませんでした

ネット上の消費者レビューから判断すると、Drifwellには残念ながら「不味い」ということ、「効果を実感できる魅力がない」という2つの重要な課題がありました。

過去15年間の失敗から、消費者の強い関心にもかかわらずこのベネフィット領域がブランドにとって軌道に乗らないのは、次のような理由があることが分かっています。

  1. 明確なベネフィットの欠如。「ベネフィットの体感」効果を得ることが困難。
  2. 消費者の関心を引くことが困難。これは、ベネフィットが体感できるという実感が乏しいためである。
  3. 消費者が体験できるベネフィットを提供し、有効かつ合法的な成分を使用し、かつ美味しい商品を提供することが困難。
(武田猛:株式会社グローバルニュートリショングループ代表取締役)

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