スウェーデンのルンド大学から生まれたベンチャー企業Veg of Lund社が開発したポテトミルク飲料「DUG」。ジャガイモをベースにした初めてのプラントベースミルクとあって、大きな注目を集めました。しかしながら、DUGの売上は芳しくなく、2022年の現在、同社は大幅な営業損失を出し、苦境に立たされています。
サステナブルという観点においても期待が大きかったVeg of Lund社のポテトミルクが苦戦を強いられている要因はどこにあるのか、考察してみました。
調査チーム(Zenken)
「健康美容EXPO」などの健康食品に関連するメディアを運営するZenkenが今消費者に求められているウェルネスフードとは何なのかをリサーチ。国内外のマーケティング成功事例・失敗事例などを独自の目線でピックアップしてご紹介します。
DUGとは?
2021年にスウェーデン国内で販売し、英国進出も果たした「DUG」。Veg of Lund社は、ジャガイモと菜種油を乳化する技術の特許を取得し、「DUG」の開発にあたりました。原材料であるジャガイモはミネラル・食物繊維・ビタミン・タンパク質・炭水化物などが含まれ、さらに菜種油をブレンドしたことでビーガンやベジタリアンに不足しがちなオメガ3脂肪酸の摂取も可能に。「World Food Innovation Awards 2021」で優勝する(※)など、業界的にも大きな注目を集めていました。
種類は「DUG ORIGINAL」「DUG BARISTA」「DUG UNSWEETENED」の3つ。コーヒーやシリアルに混ぜるなど、本物のミルクと同様に様々な用途に使える点も大きな特徴です。
なかでも一番の特徴は「サステナブルである」ということ。同社のHPによれば「同じプラントベースの乳代替品として使われる大豆、アーモンド、オーツ麦などに比べて、ジャガイモは成長に必要なものが少なく、牛乳からポテトミルクに切り替えた場合、気候への影響が67%低減する」と述べています。
「DUG」の現状は?
スウェーデンから2021年に英国進出を果たしたDUGは、大規模なキャンペーンを打ち、様々な小売店やフードサービス店で取り扱われるようになり、Amazon、Bestway Wholsale、Ocado などのオンラインストアでの販売もスタートさせました。
しかし、DUGの売上は低調で、Veg of Lund社全体でみれば、およそ20万ドルの売上にとどまっています。これはDUGだけでなく2018年に発売したジャガイモと菜種油を使ったスムージー「My Foodie」の不振も影響していますが、現状では目標に掲げている「2023年の売上29.7百万ドル」はとても達成できそうな状況とは言えません。
株式市場「Nasdaq First North」に上場するなど資金集めに奔走していた同社ですが、今のところ投資家たちの期待には応えられていません。
「DUG」はなぜ失敗した?
Veg of Lund社のポテトミルクDUGが苦戦を強いられている要因はどこにあるのでしょうか?1995年創刊で、42カ国、1000社以上におけるウェルネスフード業界の上級管理職が購読している専門媒体『New Nutrition Business』の分析レポートから考察し、その要因を探りました。
失敗要因その①:競争が激しい英国市場で苦戦
スウェーデン発のDUGが参入したイギリスは、ヨーロッパでも最大と言われるプラントミルク市場。2021年には市場全体で12%成長しており、DUGもそうしたマーケットの動向を掴んだからこそ、英国進出を選んだのでしょう。
誤算だったのは、英国プラントミルク市場の競争力。市場ではすでにオーツ麦を使った「Danone Alpro」や「Oatly」が大きなシェアを占めており、その他にも30ものブランドがひしめきあっていました。
その中でDUGは1Lあたり1.99ポンド(約330円)と高価な部類に入ります。一度は興味本位で買ってみた消費者も、価格以上の価値を感じられなかったため、結局は「Danone Alpro」や「Oatly」に買い戻すという現象が起き、DUGは売上を伸ばすことができませんでした。
失敗要因その②:低糖質を意識する消費者の抵抗感
ジャガイモはミネラル、食品繊維、ビタミンなどを豊富に含んだ栄養価の高い食材。しかしながら、炭水化物を含んでおり、低糖質を意識する消費者に敬遠された可能性は否定できません。
また、ジャガイモはブルーベリーやチアのように消費者が健康を連想しやすいわけでもなく、ソーシャルメディアでの存在感が高いわけでもありません。ルンド大学から生まれたVeg of Lund社はユニークな食品開発のノウハウは豊富に持っていますが、「科学的な視点だけでなく、マーケティング的な視点も必要だった」とNNBは述べています。
失敗要因その③:長すぎる成分表リスト
DUGのターゲットとも言える健康意識の高い消費者の多くが、商品を購入する際、パッケージにある原材料や成分表リストを確認します。DUGはサステナブルをアピールしていますが、ジャガイモの含有量は6%で、主なタンパク源はエンドウ豆由来のプロテイン。その他にもスクロース、マルトデキストリン、なたね油、酸味調整剤、炭酸カルシウム、乳化剤などが含まれており、成分表は実に16種類に及びます。これは4種類のOatlyと比べてもかなり多い数で、消費者が健康というイメージを持ちにくいのも不思議ではありません。
海外トレンド・グローバルな視点で見た
「DUG」の失敗要因は?
ここまでDUGが苦戦している理由をウェルネスフード調査チームがリサーチしてきましたが、この失敗事例から日本企業が学べることはどんなことでしょうか?NNBレポート翻訳版を提供し、その他の海外健康食品トレンド事情に精通しているGNG研究会の武田先生に解説していただきました。
株式会社グローバルニュートリショングループ
35年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外650以上のプロジェクトを実施。機能性表示食品普及推進協議会設立メンバーであり、『健康食品ビジネス大事典』『ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング』など健康食品関連の著書もある。現在も年間50件以上の企業セミナーを開催し、欧米トレンドを採り入れたマーケティング視点で、数々のヒット商品の開発に関わる。
グループ代表取締役 武田猛先生
消費者はジャガイモに対して
「健康イメージ」を持っていない
「プラントベース」の人気が高いのですが、「プラントベース」カテゴリで成功するためには戦略が重要です。
「プラントベース」が支持されるのは、そのヘルシーなイメージが優れて高いからです。 これを「健康ハロー効果」と言います。「ナチュラルヘルシー」トレンドの恩恵を最も多く受けていると言えます。
アーモンドミルク、オーツミルクは「プラントベース」乳代替品の代表的な成功事例ですが、アーモンドもオーツも、元々健康イメージが強い食品です。 その健康イメージが強い食品をより便利に、美味しく、というベネフィットが消費者に受け入れられたのです。
一方、DUGはポテトミルク、主原料はジャガイモです。 ジャガイモにはアーモンドやオーツのような健康イメージはありません。 むしろ「低炭水化物」トレンドの影響で、敬遠する消費者も少なくありません。
また、ジャガイモを材料とした食べ物は豊富な種類があります。わざわざポテトミルクにして飲むことにメリットを感じるでしょうか。 更に、「クリーンラベル」のトレンドも取り入れていません。
ソーシャルメディアでも、味の評価が良くありません。 価格も高く、他のプラントミルクよりもたんぱく質の量が少ないです。 高額で、健康的でなく、味にも難がある、ということでDUGは、失敗すべくして失敗したと言えるでしょう。