1日あたり約120万本という異例のヒットを記録している「Yakult1000」(※)。お年寄りや子供向けの飲料というイメージが強かったYakultシリーズの中で、Yakult1000がなぜこれだけ多くの消費者に受け入れられたのでしょうか。開発の背景を振り返りつつ、市場に与えたインパクトや実際の消費者の口コミ評判などをもとに、売れた要因を多角的に分析してみました。
当サイト『uerkenGAKU』
調査チーム(Zenken)
「健康美容EXPO」などの健康食品に関連するメディアを運営するZenkenが今消費者に求められているウェルネスフードとは何なのかをリサーチ。国内外のマーケティング成功事例・失敗事例などを独自の目線でピックアップしてご紹介します。
Yakult1000は
どのように開発されたか?
代田稔博士が乳酸菌シロタ株の培養に成功し、1935年から製造・販売を開始したヤクルト(※)。生きたまま腸まで届く乳酸菌による腸活の原点とも言える飲料で、多くの日本国民に愛飲されています。 ここでは、成熟した市場に新風を吹き込んだ「Yakult1000」の誕生までの経緯やマーケティング戦略について紹介します。
「ヤクルト400」から20年、機能性表示食品「Yakult1000」誕生
ヤクルトが発売された1935年以降も乳酸菌シロタ株の培養研究を続け、1999年には乳酸菌シロタ株が400億個入った「ヤクルト400」の開発に成功。それから更なる研究を重ね、20年後の2019年に「Yakult1000」が誕生しました。
この「Yakult1000」は100ml容器に、ヤクルト史上最高密度となる1000億個の乳酸菌シロタ株を含有。様々な試験データや体感調査を行なった結果、「ストレスを和らげる機能」や「睡眠の質を高める機能」があるというエビデンスが得られ、機能性表示食品として販売を開始しました。
「体感の見える化」が
異例のヒットを生む
「Yakult1000」は発売当初の2019年時点では関東1都6県のみで販売。2021年4月から販売エリアを全国に拡大しました。訪問販売のみでしたが、同年10月には店頭向けシリーズの「Y1000」をリリース。効果を実感した消費者はもちろん、マツコ・デラックスなど著名人の口コミ・評判が火付け役となり、一時は新規注文の受付を中止せざるえないほど爆発的なヒットを記録しました。
SNSでは「悪夢を見るほどよく眠れる」と話題となり、従来のヤクルトの消費者層とは異なる20~30代の利用者も続出。「睡眠不足大国」とも言われる現代の日本人にとって、「Yakult1000」はまさに時代が求めていた商品だったと言えます。
見逃せないヤクルトレディの存在
SNSでの話題性が注目されがちですが、見逃せないのがヤクルトレディの存在です。発売当初は訪問販売のみで、ヤクルトレディが家庭やオフィスビルでその魅力を丁寧に説明し、その効果を実感した人が他の人にオススメする、という形で徐々にリピーターを増やしていきました。
睡眠の質改善やストレスの緩和といった効果が「見える化」しにくい商品だからこそ、消費者のリアルな口コミ評判は非常に価値があります。そこに着目し、SNSの話題性だけでなく、地道なマーケティング活動を怠らなかったことも大きな勝因と言えるでしょう。
Yakult1000を購入した
消費者の口コミ評判まとめ
「寝つきが良くなった」という声が多数
50代・女性
「最近人気の『ヤクルト1000』。勤務先に併設されたコンビニにあったので、さっそく購入。また、寝つきが悪かったのが、ベッドに入ってすぐに眠れました。朝までぐっすり眠れました。美容にもよいと思います」
50代・女性
「近所のスーパーで見つけて試してみました。普通のヤクルトよりもやや高めで量も多めです。寝る前のだるさも感じません。約2週間継続しましたが、効果は継続しています」
50代・女性
「コンビニ、スーパーでは『ヤクルト1000』を全然買えない状態で、会社にヤクルトレディが出入りしている知人に頼んで買ってもらいました。味は子供の頃から飲んでいる懐かしいヤクルトと同じです。入手困難ですが、毎日飲み続けたいです」
30代・女性
「最近、寝つきが悪く、布団に入って1、2時間寝入るのに時間がかかっていました。初めて『ヤクルト1000』を飲んだ時から効果を実感でき、もうこれがないと無理だと感じています。コンビニやスーパーをハシゴして探し回りましたが見つからず、ヤクルトレディに宅配を依頼しました。一生飲み続けます」
20代・女性
「ヤクルト1000は値段が高めですが、味も美味しいし体にもよいので、子供にもすすめられます。また、お通じもよくなるし、おなかの調子もよく、毎回飲むのが楽しみです」
20代・女性
「理系大学院に通っている私が『ヤクルト1000』を考察してみたところ、『ヤクルト1000』で腸内環境がよくなることで、脳にも良い影響があると考えます。1日での効果はプラセボで糖分の影響だと思います。本来の効果は継続して飲むことが必要だと思います」
20代・女性
「バズり始めたくらいの頃、自動販売機で見つけ、半信半疑で試してみました。普段は疲れが取れず、二度寝を繰り返していましたが、「ヤクルト1000」を飲んだ後、次の日はスッキリ目覚めることができました。ただ、効果はあると思いますが、続けると実感できる度合いは小さくなるため、他の生活改善も必要だと思います」
40代・男性
「職場でも『ヤクルト1000』は流行っています。お腹の調子は確かに良くなりました。夜の眠りについてはなんとなくという感じでした。高級感があり、普通のヤクルトよりもちょっと量が多いのが魅力です」
「Yakult1000」は
なぜ売れた?
ヤクルトは日本人なら誰もが知る飲料で、成熟したブランドと言えます。その価値をさらに向上させ、「ストレスの緩和」と「睡眠の質の改善」という機能性を科学的に証明し、消費者にも体感させた「Yakult1000」は市場に大きなインパクトを与えました。
現代人が抱えるストレスや睡眠の悩みに対して、自社製品の強みをマッチングさせた戦略はトレンドをよく把握していたからこそ、採用できたと言えます。このトレンドとのマッチング戦略なくして「Yakult1000」の成功はなかったでしょう。
ヤクルトレディによる対面販売も消費者の信用度を上げ、口コミの高評価につながりました。SNSでも話題となり、定期的にヤクルトレディから購入する層から20~30代のビジネスパーソンへと市場を拡大し、店頭では品薄になるほどの売れ行きでした。
「良い商品を作る」というだけでなく、現代日本人が抱えるストレスと睡眠という社会課題に自社製品を結び付けたことがヒットした要因と言えるでしょう。
【専門家に聞く】
海外トレンド・グローバルな視点で見た
「Yakult1000」の成功要因は?
日本のウェルネスフードのトレンドは、より健康食品の研究開発が進んでいる海外の影響を受けているケースがほとんどです。つまり海外トレンドを知っておけば、日本でこの先売れ続けるウェルネスフードの傾向が把握できると言っても過言ではありません。
ここでは、海外の健康食品トレンド情報に精通しているグローバルニュートリショングループの武田先生に、グローバルな視点で見た「Yakult1000」の成功要因を解説してもらいました。
株式会社グローバルニュートリショングループ
35年以上一貫して健康食品業界でビジネスに携わり、国内外650以上のプロジェクトを実施。機能性表示食品普及推進協議会設立メンバーであり、『健康食品ビジネス大事典』『ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング』など健康食品関連の著書もある。現在も年間50件以上の企業セミナーを開催し、欧米トレンドを採り入れたマーケティング視点で、数々のヒット商品の開発に関わる。
グループ代表取締役 武田猛先生
「ムード&マインド」の
数少ない成功事例
ウェルネスフード・ビジネスにおけるバイブルとも言われている『New Nutrition Business』誌が毎年発表している“10 Key Trends in Food, Nutrition & Health”では「ムード&マインド」が2019年から10キートレンドの1つとして取り上げられています。コロナの影響で、このトレンドはますます加速しています。
海外でも「ムード&マインド」に対する消費者の関心とニーズは高く、消費者の関心の主流になっています。クールなブランディング、クールな成分、素晴らしいソーシャルメディアキャンペーンを展開する「ムード&マインド」製品は豊富にあります。しかし、科学的な裏付けがなく、効能を実感できる成分が含まれていないため、ほとんどが失敗しています。
「Yakult1000」は、日本人によく知られている乳酸菌シロタ株の「腸脳相関」という最新の科学に基づく効果をうまく伝えています。
「ムード&マインド」製品の成功が難しい理由は、次の3つが考えられます。
- 目に見える効果がない - 脳の健康において「効果を実感する」ことが困難であること。
- ベネフィットを実感できないため、消費者とのエンゲージメントが難しい。
- 消費者が実感できるベネフィットを提供し、有効かつ合法的な成分を使用し、かつ美味しいと感じる製品を提供することは難しい。
ベネフィットを感じられないとリピート購入に繋がりません。そのため、成功事例が少ないのです。 成功している数少ない製品は、消費者が実感できる効果がある、または 一部の消費者が効果を実感していることが広く知られています。 「ヤクルト1000」は、効果を体感した人たちが積極的に情報を発信していることも成功要因の1つだと思います。